乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー

テーマ4 牛の快適性を追求して健康と乳を最大にする(10回)

【8回目】初産牛は高産次牛と異なるので配慮する

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初産牛は分娩後の摂取量が緩やかだ

頭数が多くなってくると、個というよりは群で一括りにして管理することになる。
ただ、同じ乳牛であっても初産牛は3産以上牛と比べ、フレームサイズが85%で臓器の大きさ機能・・・など、成長段階で未熟だ。

さらに、群への滞在期間が短く、施設や機器の熟練度が低いため社会的立場は弱い(写真)。

乾物摂取量は多くの要因が絡んでいるが、最も影響を受けるのは体重、乳量、乳脂率で、推定式はこの3項目から求められる。
しかし、分娩直後は体調不良もあり急激な乳量増に対して、ルーメンの消化、代謝が順応しきれない。そのため、分娩後10週までは100%を摂取できず、初産牛と2産以降牛に分けて補正する必要がある。

最大乾物摂取量に達する分娩後10週に対して、初産牛は分娩時71%、週が経過すると緩やかに直線的に上昇する。
しかし、2産以降牛は分娩時65%と極端に低いが1週目で初産牛と並び、3週目で87%、6週目で95%と驚異的に伸びる。

最大乾物量の90%に達するのは、初産牛は7週目と緩やかであるのに対し2産以降牛は4週目で分娩後の摂取スピードに違いがある。分娩後における喰い込み量は初産牛と高産次牛が異なり2産牛より3産牛、3産牛より4産牛・・・、産次が進むほど急激に増える。


初産牛は乳量差が小さく持続性がある

高産次牛は口が大きくルーメン内へ大量に貯蔵できることもあって、1回のあたりの飼料摂取量が多い。
一方、初産牛は口が小さくルーメン容積が少ないため、1回あたりの採食時間が短く、量が少なくスピードも遅い。

しかも、1回あたりの反芻時間は短く、1日の反芻回数は多く効率が悪い。そのため、一定の乾物を摂取するためには、飼料へのアクセス時間を長く回数を重ねる必要がある。

産次別の泌乳曲線を確認すると、3産以降牛は泌乳ピークが40kgにも達し泌乳末期牛に20kgまで低下する。しかし、初産牛はピークがなく30~20㎏で推移、一乳期で乳量差は小さく持続性がある(図)。

このことから、2産以降上の牛は乳量や乳期で明確に群を分けるべきだが、初産牛だけは1グループで乳期全体を通すことが理にかなっている。
3産以降牛と異なり泌乳末期でも肥り過ぎの心配は少なく、増体分の栄養分を補給するという考え方である。高泌乳になるほど、頭数が増えるほど、初産牛という弱い仲間でグループ化することが求まられる。


初産牛は採食や横臥の犠牲になる

泌乳牛の1日はおよそ採食5時間、横臥休息10~12時間、飲水30分という時間の使い方である。
一頭当たりの牛床数が1.0以下の密飼い農家における1日の横臥時間は654分(初産牛623分)で、1.1以上の813分(同813分)よりも少ない(表)。

人為的に15頭分の利用可能な牛床数を5頭分にすると、横臥時間は2産以上が167分、初産牛が190分減少した。

一方、一頭あたりの飼槽幅が70cm以下農家における1日の採食時間は271分(初産牛289分)、70cm以上の1日の315分(同322分)よりも少ない(表)。

人為的に飼槽数を15頭分から5頭分に減らすと、採食時間は2産以上が11分、初産牛が28分減少した(根釧農試 1999)。

注目すべきは、初産牛は高産次牛と比べ混雑してくると牛床で寝たい、飼槽で喰べたい、行動が制限され犠牲になる(写真)。

寝る時間は夜ではなく昼、喰べる時間は昼ではなく夜に補っている。

一方、初産牛は高産次牛と比べて、分娩後に発熱し体調の悪くなる確率が高い。
分娩後1〜13日まで検温、体温39.4℃以上を「発熱牛」、それ以下を「非発熱牛」とした。発熱牛は47%だが、初産牛は60%、2産以上牛は39%であった。

分娩介助は初産牛が48%で2産以上牛の2倍、介助した牛の発熱割合は84%で2倍強あった。
産褥期における発熱牛は非発熱牛に比べ、初産牛の乳量は1.2㎏、乾物摂取量が1.8㎏も低い(根釧農試2009)。

さらに、開腹手術を経て治癒に至るまで成長期にあり、治療日数や回復までに時間を要する。しかも、妊娠、出産、泌乳だけでなく、獣医師の処置も初めての経験で、生理的な負担が重なる。

快適性の追求というと、換気、牛床、通路などの施設を想像するが、初産牛は高産次牛と異なるので、採食や横臥の犠牲を防ぐなど配慮が必要だ。

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