乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー
テーマ3 乳牛の分娩前後をスムーズに移行(10回)
【7回目】分娩後の乳房炎はストレスで発症する
乳牛にとって乳房炎は職業病だ
人為的に乳牛を飼うと、たくさん乳を出すよう品種改良がなされ、さまざまな病気に悩まされる。
自分の体重の30倍以上もの乳を出さなければならない牛の負担は相当なものだ。乳牛は血液を乳房に送り込んでフル稼働させられ、どれだけ酷使されているのかが想像できる。
職業病ともいえる乳房炎は乳頭口から乳房内に侵入した微生物が定着・増殖することで炎症を起こさせるものだ。高泌乳になるほど、産次が進むほど、分娩前後に免疫機能が低下するほどリスクが高まる。
現場において乳房炎を含む泌乳器病の発生件数は、増えることはあっても減少していない(写真)。
乳房炎は世界のあらゆるところで発症、酪農経営者を悩まし大きな被害を与える。乳質ならびに泌乳量の低下を招くのだけでなく、さまざまなマイナスの影響を及ぼす。
近年の獣医療技術や衛生技術、搾乳機器等の性能向上にもかかわらず、今もなお難しい問題であることを示している。日本が世界に誇る高品質乳をこれからも生産し続けるために、農業者だけでなく関係者がこの問題を解決する必要がある。
分娩後の乳房炎は後期まで持続する
乳房炎は一乳期を均等に発症するのではなく、ストレスが大きい分娩後に集中する(図)。
牛の免疫システムは分娩前後1週間に抑制され、好中球はバクテリアを殺す能力が低下してくる。乳牛は免疫低下に陥り、血漿コルチゾール5~7倍に増加して乳房炎の発症率が高くなる。
しかも、泌乳準備と低カルシウム血症等で乳頭括約筋の閉鎖を阻害する可能性が高い。低カルシウム血症の牛は乳房炎発生率が8倍以上、ケトーシスは2倍以上、双子・難産・後産停滞も高い(Goff&kimura2002)。
分娩後30日以内の初回疾病は次ぎの疾病にどのように関連するかを確認した。
乳熱に罹患した牛(n=79)は次の疾病が乳房炎34%、産褥熱や難産(n=68)も乳房炎35%と高い。当然、初回が乳房炎(n=68)に罹患すると、次の疾病も乳房炎が59%と極端に高い数値を示していた。
分娩後30日以内で急性乳房炎に感染すると、健康牛(カルテがない)と比べて平均リニアスコアの差が泌乳後期まで縮まらず持続する(図)。
乳房炎は完治すれば良いのではなく、治療よりも予防という発想が求められている。分娩前後のストレスが体細胞に反応して、他の周産期病へ連鎖的につながっていくのだろう。
ただ、同じ分娩後の乳房炎であっても、治療後は日数経過後とともに次第に低下していくことが分かる。
しかし、黄色ブドウ球菌(SA)感染牛は治療後すぐに反応して一時的に体細胞数は減少するが、その後再発し再び体細胞数は高くなる。SAは乳腺組織に侵入するため、抗生物質を投与しても根絶させることが難しい(図)。
乾乳期から分娩直後に感染している
乾乳直後と分娩前後は乳を遮断と排出した数日間が最も乳房炎に感染しやすい。乾乳開始や分娩前は乳房が張り、乳頭口は開きぎみになって、細菌が乳頭口から侵入しやすくなるからだ。
X軸に乾乳前(前乳期最後の検定)と、Y軸に分娩後(今乳期最初の検定)体細胞283千個/ml以上のリニアスコア(RS)5で4区分した。
その結果、北海道において乾乳前と分娩後がRS5以下の良質乳牛はおよそ7割であった。乾乳前は乳房炎だが乾乳期治癒で分娩後は良質乳牛が15%、乾乳前も分娩後も乳房炎牛が5%であった(北酪検)。
注目すべきは乾乳前が健康牛だが、分娩後はRS5以上の乳房炎に罹っていた新規感染割合が10%あったことだ。
RS5以上は乾乳前25頭が、分娩後71頭まで増え、2.8倍の牛が感染している酪農家もあった。本来、乾乳期間は次の分娩に備えて、乳腺を休ませて慢性乳房炎を治療するチャンスだが、逆に感染していることが相当数いる。
乾乳牛は牛床へ敷料を豊富に投入し丁寧な別途メイキング、必要以上の頭数をいれずゆったりと飼う(写真)。
分娩及び乾乳スペースは頻繁なふん処理で牛床を乾燥させ、細菌数を減らし清潔度を高める。
泌乳を中止する時は軟膏だけでなく乳頭口をシールド(商品名ドライフイルム)し細菌感染を防ぐ。
乾乳期用の乳頭保護液でポリウレタン製のフィルムによって乳頭孔をしっかりと保護する。浸漬後数分で乾燥して膜を形成し、数日間保持されるので試す価値はある。(写真)。
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