乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー

テーマ4 牛の快適性を追求して健康と乳を最大にする(10回)

【9回目】牛の行動を制限せず人は穏やかに接する

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寝る喰べる行動を制限しない

牛が寝る場所(ストール)は飼槽に近い列、端からではなく中央、敷料が豊富に入って柔らかいところ、対面牛床では相手側の空いているところ、ネックレルは高いところ、飼槽は空気の流れが良いところ、逃げ場のあるところ、濃厚飼料が多く落ちているところ・・・から埋まっていく。

水槽は牛床や飼槽の近いところ、水がきれいなところ、混雑していないところ、床はふん尿が溜まらず臭いの少ないところ・・・から利用されていく。
牛は人が思っている以上に待つことが嫌いで、目的の場所が混んでいると、すぐに諦めてしまう。

ストール両脇で寝ているとスペースが制限され、どちらかが起きるまで横臥することができない。
人の場合、「そろそろ起きて俺にも寝かせろ」と言うが、牛はそのような行動はとらない(写真)。

通路幅が狭く後脚を通路に起立姿勢をとると、周りの牛はエサを食べに、水を飲むことができない。
人の場合、「エサを喰べに行くのでちょっと通してくれ」と言うが、牛はそのような行動はとらない(写真)。

フリーストールで片肢が牛床、もう片肢が通路という不自然な姿勢をみかけるが、ここは自分のものだと主張しているのだ。
このような光景は一定のスペースに牛を入れたり、肢蹄病に悩む酪農家に多くみられる。牛群中に1割以内であれば問題ないが、3割以上いれば生産が大きく落ち込む。牛の快適性を追求することは、寝たい、喰べたい・・・行動を制限しないことだ。


人の動きは牛の行動を変える

牛は本来、臆病な生き物で管理者が大声で怒鳴ると、人との信頼関係を著しく失う。
怯えると肢で蹴ったり、体を押し付けたりして極端な排除行動をとり事故が発生する。

経営形態で人と牛と信頼関係が良好なのは繋ぎやフリーストールではなく搾乳ロボットだという。
人のような感情がなく、蹴ったり、大きな声をだすことがないため落ち着いている。強制されることなく、自分のペースで自由な行動ができるため、ストレスも少ないからなのだろう。

牛は敏感な生き物なので、人の不安やイライラした気持ちが伝わるため、常に穏やか気持ちで接することを心掛けるべきだ。

2009年のイグノーベル賞を、キャサリン・ダグラス、ピーター・ロウリンソンがイギリス・ニューカッスル大学で受賞した。
その課題名は「名前をつけられた牛は、名無しの牛よりも、たくさんの乳を出すことを示した」というもの。これは名前をつけられたことよりも、管理者が優しく扱っていると乳量も多くなることを証明したものだ(写真)。

管理する人が牛の行動と習性を理解して、穏やかに接すれば自ずとおとなしくなる。


いつもと異なるとふんに反応する

牛は習慣性があり作業者の服や作業手順が少しでも異なると緊張する。パーラーに入るときは右側、左側がほぼ固定、逆に入る牛は発情と断定している酪農家もある。搾乳ロボットは右利きと左利きがあるようで、グループを変えたとき同じ方向へ配置すべきだ。

搾乳は酪農家にとって金になる最終段階であり、牛は乳を体外へ放出できる至福の時間帯である。
赤みをおびたピンクの乳房色になり、豊富な血流量で乳腺細胞が活発に乳汁合成を行っている。人は接触する唯一の作業であり、乳房の大きさと張りだけでなく、体調を含めてあらゆることがモニターできる(写真)。

作業がマニュアルに反したり、日によって搾乳手順が異なると牛は緊張状態に陥る。
手荒い作業者が搾乳すると、ストレスでパーラー内の排ふん量が増える。快いハンドリングは乱暴なハンドリングと比べ、パーラーへ入る時間が短く排ふん回数少ない。

新築牛舎で初めてパーラーを通す時はおよそ3割の牛がふんをする。
しかし、次の回から徐々に減っていき、3日目ごろから待機室で同方向へ並び、一週間後は極端に少なくなる。そして1ヶ月もすれば、スムーズに移動、パーラー内でふんをする牛がほとんどいなくなる(写真)。

牛は人の都合で新たな環境へ組み込まれたり、強制的に移動させられたり、いつもと異なると不安になりふんをする。
作業者は頭にきて扱いがラフになり、牛にとっても人間にとっても不幸で、まさに「くそ(糞)ったれ」状態に陥る。人の動きは牛の行動を変えふんに反応する。

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