乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー

テーマ4 牛の快適性を追求して健康と乳を最大にする(10回)

【5回目】自然な姿勢で採食できる管理をする

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日中は採食して夜間に横臥する

自然界で牛は日の出とともに喰べ始め、日中は12時間以上もひたすら喰べ続ける(写真)。

そして、夜は静かなところで、子牛を寄せながら、ゆったりと反芻しながら寝る生き物だ。寝るといっても熟睡することなくウトウトした状態で、常に周りの動きを察知している。

パーラーから帰ってきた牛は採食して、1~2時間後に横臥、5~6時間後に再び飼槽へ並ぶ。しかし、初産牛は経産牛と比べて給与直後だけでなく、夜中にも採食する不自然な姿が散見される。夜は横臥するものだが、弱い立場の初産牛は日中に喰い負けするための行動だ。

牛は採食後、3時間経過すると空腹を感じる生き物で、飼槽にエサがない状態はその時間が限界だ。酪農家の中には5時間以上も空白か、とうもろこしの芯だけということが見受けられる(写真)。

可能であれば飼槽の掃除の時間である30分以外は常にエサがあることが望まれる。一定のスペースに頭数を入れ密飼い状態になっても、喰べたいと思った時に新鮮な飼料があるかだ。


時間をかけて繊維を少しずつ喰べる

自然界では飼料用とうもろこしのような高濃度なエサがなく、栄養価の低い野草が中心になる。草が豊富に確保されていないこともあって、喰べることに長い時間を割かなければいけない。

少しずつ繊維の多い草を長時間かけて摂取することは、ルーメン内発酵を適度に保つ。繊維中心のエサであるため、積極的な反芻行動を促し、アシドーシスを引き起こすこともない。穀類の固め喰いや選び喰いがなければ、ルーメン内のpH、プロトゾアなどの微生物叢の変動が少ない。乳生産が低下した、蹄葉炎が増えた、乳脂率が低くなった・・・、などの現象は短時間で大量の穀類を摂取したと考えられる。

図は疾病多発・少発農家における分娩経過日数別乳脂率の推移を示している。

乳脂率は採食に時間を要するが繊維(粗飼料)を喰いこんでいる指標として考えられる。疾病が少ない酪農家ほど、ゆったりと粗飼料を摂取、乳牛の健康状態にも関連している。
濃厚飼料を採食するスピードは、一分間で経産牛300g、初産牛200gほどが限界とされている。したがって、搾乳ロボットの場合は一日の搾乳回数が3回とすると、経産牛6kg、初産牛4kgが上限になる。
泌乳前期は濃厚飼料を最大限給与しても、PMRは乳量ベースで一日28㎏ほどに設定する必要があり、良質な粗飼料が求められている。


自然な姿勢でゆったりと喰べる

牛は珍しいもの喰べるとき、鼻先を伸ばし臭いを嗅いで、舌で異物を確認しながら喰べる。野草のような細長いものを好む習性があり、釘や針金など細くて長いものは飲み込んでしまう。
放牧地での採食姿勢は両肢を揃えることなく、どちらかの肢を前方へ出す(写真)。

人工的施設の場合は飼槽壁に両肢を揃え、狭いスペースに多くの牛が並んでいる。そのとき飼槽壁に対して直角ではなく、斜めに立つ姿を見かけるのは片方の肢を前へ出したいからだ。

しかも、喰べていく向きは低い方(麓)ではなく、高い方(丘)へ進んでいく。そのため、飼槽は肢下より高めに設計しスペースに余裕をもたせることで、採食しやすくなる。
とくに、体が大きく重い乾乳牛や肥育牛は、飼槽面は肢元より20cm以上高めに設置すべきだ。小さい初産牛は飼槽壁の高さが首に当たり苦痛、採食姿勢が不自然になる(写真)。


顔は飼槽面に対しておよそ60度の角度で、隔壁周辺ではなく20~30cm先のエサを喰べる。飼槽と牛床を隔てる飼槽隔壁は柱の太さに左右されるが可能な限り薄く、連動スタンチョンや馬栓棒タイプは肩の負担を少なくするため前方へ20㎝ほど出すべきだ。ネックバーが低く前方へ出ていないと、バーがあたり、毛は抜け窮屈な採食姿勢になる(写真)。


酪農家はエサの掃き寄せの回数を減らしたいこともあって、飼槽の壁際へ大量に寄せるのを見かける。しかし、牛は喰べずらく、口を前後に動かしながら、一度前方へ飛ばしてから採食するので、作業者は二重の作業になる。
自然な姿勢でゆったりと喰べれる管理をすれば、牛の快適性は高まり、健康と乳を最大にすることができる。

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