乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー

テーマ5 管理によって子牛の健康と良好な発育(10回)

【1回目】分娩前後の子牛の死を減らす

Index

酪農家間で死産率に差がある

すべての生き物には必ず死が訪れるもので、避けては通れないものだが、どんな理由なのかが問題である。生涯で乳生産に尽くし、年を重ねるにつれて体力は少しずつ衰え、肉体や心が徐々に変化し死を迎えるのが自然だ。

北海道における3890戸の子牛死産率の分布を確認した(北酪検)。死産率は平均6.2%であるが0%から20%超えまで、酪農家間で広い範囲で分散していた。一年間ゼロという酪農家はおよそ1割、逆に2割を超えるところもある(図)。

単純に、一戸あたり1年間の分娩頭数100頭にするとおよそ6.2%で6頭の子牛が死んでいる。

一方、酪農家における2カ年の死産頭数の関係を確認したが、相関は極めて高い。昨年の死産が20頭の酪農家は分娩前後の管理を見直さない限り、本年だけでなく3年後、5年後も20頭前後が死ぬ。
逆に、昨年ゼロの酪農家は飼養管理を変えない限り本年だけでなく、3年後、5年後もゼロに近いことを意味する。

ただ、規模が大きいほど労働力は回らず死産率が高いと推測したものの、経産牛頭数との関係は薄い(図)。

130頭以上の大型経営は7%前後で、分娩時の管理マニュアルが確立し実践されている。逆に、飼養頭数の少ない酪農家ほどバラツキが大きく、お爺ちゃんの時代から管理が伝統的に動いていると判断できる。


出生後の新生子牛死亡率が高い

酪農家が耳標を装着してから出生0か月齢に死んだ子牛は、北海道が3~4%にも達する(図)。

これはホルスタインだけでなく、黒毛和種、交雑種であっても大きな違いはない。
経過日数が経つほど死ぬ牛が少なくなり、若牛で体調不良は考えられず出生後の新生子牛に集中している。特に、下痢は成長を妨げ、体力損耗・免疫力低下を起こし、肺炎にも掛りやすく、重篤な場合は死亡する。

このことを考えると、子牛の死亡率は分娩前後6%、0か月齢3%、加えると事故率は9%にも達する。
乳用子牛等の半数が雌と考えれば、貴重な乳牛資源が失われていることを意味する。

出生直後の子牛であっても、体重が大きいほど離乳前の罹患率及び事故率が低い。同じ妊娠期間であっても、母体の栄養状況及び快適性で生まれる子牛の体重は大きな違いがある。

大型経営のCさんは生後3ヶ月以内の子牛死亡率がゼロで、快適性の追求だけでなく毎日検温を実施している。スターターを給与すると一斉に並ぶので、50頭ほどの子牛を電子体温計にて1頭あたり5秒程度、熱のある場合は早めに処置している。
滞在時間が長い床面の乾燥・清潔にするなど、環境の改善が最も必要な時期だ(写真)。


死産は母牛の繁殖リスクを高める

死産は分娩時に「子牛が死ぬ」という一次的な問題でなく、母牛もボデイブローのように後から効いてくる。今産に死産を経験した母牛は次産のトラブルになることが多く、特に繁殖はマイナスの影響が大きい。

酪農家単位でみていくと、分娩頭数に対する子牛死産率と次期分娩間隔の関係は正の相関がある(r=0.504 n=50)。
死産率の高い酪農家ほど次の分娩間隔が長く、死産率の低い酪農家ほど分娩間隔が短くなる傾向だ。

個体牛別でみていくと、子牛の死産記録があった母牛の分娩間隔は2産426日(n=38)が次産456日、3産以降牛419日が次産441日(n=68)と延びていた。
さらに、長期不受胎牛が多く、淘汰の割合が高くなっていた。

その要因は分娩状況が子宮内膜炎へ関連し、オッズ比(罹患牛と非罹患牛)は胎盤停滞34.3倍、死産7.9倍、双子5.0倍、助産2.8倍、乳房炎1.8倍、低Ca血症1.6倍だ(Potterら2010)。
妊娠中の子宮は無菌状態な環境であるが分娩直後からさまざまな細菌が検出、子宮の収縮に伴って悪露と一緒に体外へ排出される。

しかし、分娩後しばらく経過しても細菌が検出され、子宮の修復がスムーズでなければ子宮内膜炎へ移行する。死産は子宮炎や子宮内膜炎と関連が強く、産道へ大きなダメージとなり受胎率を低下させている(写真)。

北海道9農場553頭において、分娩後6週目に子宮の検査を行い、各農場における子宮内膜炎の発生率を調べた(根釧農試2014)。
平均は40%であったが酪農家間で30~57%と大きな差が認められた(図)。

その発生要因は乾乳期の過肥、分娩前の牛群変更、飼料摂取量の低下、周産期病(胎盤停滞、代謝病)、子宮炎を指摘している。

お問い合わせはこちらまで