乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー

テーマ3 乳牛の分娩前後をスムーズに移行(10回)

【8回目】乾乳から泌乳初期の管理で分娩事故を低減する

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酪農家間で周産期病に差がある

酪農経営は多頭化、大型化、自動化、外部化が急速に進んできたが、牛の事故を減らし健康に飼う技術は農家間に差が生じている。
同一ほ育センターの構成員22戸でも、年間子牛死産率は平均6.7%だが2~9%、分娩後60日以内母牛の除籍率は平均7.7%だが4~14%と酪農家間で広く分散していた(図)。

また、同一TMRセンターの構成員18戸が同じ原料のエサを給与しても、年間分娩間隔の平均は436日だが400~481日、体細胞平均21万だが、4~40万個と差があった(図)。

酪農家間で管理に差が生じているものの、分娩事故の低い、分娩間隔の短いところが実在していた。
個体乳量と分娩後60日以内における潜在性ケトーシスが疑われる乳の高ケトン体(BHB)牛0.13mmol/L(血1.2mmol/L)以上の割合を示している。

乳量の高い酪農家は高ケトン体割合(周産期病)が高いかというと両者には関係はない(図)。

このことから、分娩事故は飼養管理で低減できることを意味している。
分娩後60日以内潜在性ケトーシス牛の基準は群で15%以下にすると、北海道は37%の酪農家が上回っていた。
泌乳初期の高ケトン体(BHB)牛割合は、乾乳から泌乳初期の飼養管理技術の指標となり、これを上回る場合は見直しが必要と判断できる。


良質な粗飼料を確保し給与する

粗飼料の主体はグラスやコーンサイレージで、その給与量は日量30㎏にもなる。四つのTMRセンターの構成員と、所在地域(町)の高BHB牛割合を比較した。

分娩60日以内の高BHB牛割合は、地域平均が7.2%(359戸)に対してTMRセンターは2.6%(31戸)で、分娩30日以内でも同様の結果となった(表)。


TMRセンターは計画的な草地更新や適正な施肥管理など、植生改善に積極的に取り組んでいる。
また、踏圧や密封などの調製技術も高く、酪酸発酵の発生割合は概して低い。周辺酪農家と比較しても高BHB牛割合が低い背景には、TMRセンターで調製したサイレージが良質であると推測できる(写真)。

ただ、TMRセンターに共通する問題はバンカーサイロの切り替え時に乳量低下、体細胞数の増加、体調不良が発生するといった構成員からのクレームが多い。
サイロの最初と最後の部分は踏み込み不足となりやすく、結果的にBHBの上昇を招く。周産期病を低減するためには、良質な粗飼料を確保し給与することが求められている。


乳期は乾乳期からスタートする

大規模化が進んでいる現状では乳期全体の牛をモニター、管理することは不可能だ。淘汰ではなく、廃用の意味合いが強い分娩60日以内除籍率の関係を規模別に確認した。
その結果、経産牛頭数120頭以上を飼養している酪農家は7%前後であるが、100頭以下の中小規模は0~20%とバラツキがあった。

これは、大型経営は近代的な施設や機器だけでなく、従業員への作業マニュアルが徹底され、管理や技術の平準化が進んでいる。一方、中小経営は昔から現在に至るまで、お爺ちゃんの時代から管理が長期間続いていると推測できる。

乾乳前期に喰い込んだ牛は後期でも産褥期でも飼料充足率が高く、泌乳初期でも喰い込む。
逆に、乾乳前期に喰い込まない牛は後期も産褥期も飼料充足率が低く、泌乳初期でも喰い込まない。さらに、乾乳後期にTDN充足率が高くなれば難産は少なく、低ければ多くなる。

分娩前に乾物摂取量が大きく低下、エネルギーが不足するとトラブルになる可能性が高い。乾乳期から泌乳初期の飼料充足率が高い牛ほど、周産期病は少なく初回排卵日数と初回授精日数が短くなる。

スムーズに分娩させるためにはどうするべきか、現場で周産期病の低い酪農家に聞き取ると共通点かある。
①乾乳から分娩にかけて動きを制限することなく、自由な動きを優先する。
②乾乳スペースがあり密飼いすることなく、敷料も豊富に投入して床面が滑らない。
③乾乳期に良質な粗飼料を給与し腹いっぱい喰い込ませる
・・・など、分娩時はカウコンフオ-トの追求だけでなく、母牛の乾物摂取量を増している。分娩後の体調不良を低下させるには、快適性の追求と嗜好性・栄養価の高い粗飼料を給与することだ。

多くの酪農家は一乳期のスタートを分娩からと考えているが、乾乳期からとの考え方が重要だ(図)。
乾乳から泌乳初期の管理を徹底することで、分娩前後の事故を低減できスムーズに移行できる。

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