乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー
テーマ2 牛の健康はルーメンの健全にすることを最優先(10回)
【7回目】粗飼料(繊維)の摂取量は糞で判断する
粗飼料摂取量は糞量で判断する
草食動物である牛は繊維を喰べる生き物で、ルーメン微生物を活性化、だ液を出しアシドーシスを防止するが、粗飼料の摂取状況が分からない。これをモニターするときは、糞の全体量と個々の大きさで判断すべきだ。
初産牛は乾物摂取量15.5kg、糞量35.8kg、2産以降牛は乾物摂取量20.9kg、糞量51.4kgである。2産以降牛は前期51kg、中期51kg、後期53kgで、乳期間で大きな違いがなかった。量に影響するのは乳量や体重より乾物摂取量で、最も高い相関はNDF摂取量である。
初産牛(糞量kg=2.75*NDF摂取量kg+17 r=0.461)、2産以降牛(糞量kg=3.57*NDF摂取量kg+19 r=0.581)である(道立根釧農試1999)。
このことから、糞量が多い日は粗飼料の喰い込み量が良く、個々の大きさが均一であれば個体牛間のバラツキが少ないと判断できる。除糞するとき、数日前と比較して量をモニタリングすることで、より綿密な飼料設計が可能となる。
この作業は毎日2回バケットで糞を外へ出すという単純労働でなく、質の高い作業と考えるべきだ(写真)。
乳牛のルーメン内を覗くことができないため、糞の量と硬さ柔らかさ形状、色で判断するしかない。ルーメンの健全にするには、牛は繊維(粗飼料)を喰べる生き物だということを再認識するべきだ。
粗飼料の切断長を短くする
では、天候不順によって良質な粗飼料を収穫できないとき、どうするべきか大きな問題になる。2018年、ウイリアムマイナー研究所で興味深い研究を報告している。
粗飼料は良質(低uNDF240)と非良質(高uNDF240)、切断長が短い、長い4区分に分けて試験を行った。
その結果、良質+短切断長は乾物摂取量や日乳量、採食・反芻時間は極めて良好で総VFAも高かったが、非良質+長切断長は全く逆であった。
注目すべきは、良質+長切断長と非良質+短切断長は乾物摂取量、日乳量、採食・反芻時間、総VFAはほぼ同程度であった(写真)。
このことから、粗飼料の品質が懸念されるときは、切断長を短くすべきだ。そのことで、摂取量を確保するだけでなく、鎮圧しやすく乳酸発酵が進み容積も少なくて済む。
牛の口は大きくはないので、乾草などの長ものを喰べるとき、時間を要して苦労している。
特に、初産牛はさらに口のサイズが小さいこともあって、長すぎる粗飼料は避けたいものだ。
パーテイクルセパレータの推奨値は従来のPSPS2013(旧)から、ウイリアムマイナ研究所2018(新)変ってきている(表)。
活性型酵母がルーメン環境を改善する
酵母は様々な効果を有するため、家畜の補助飼料として古くから利用されている。活性型酵母は通常胞子の状態で貯蔵されているが、給与するとルーメン内で出芽し菌の活性を高める。目覚めた酵母がルーメン内の酸素を吸収することで、嫌気性に傾け微生物が働きやすい環境をつくる。
繊維消化細菌、乳酸利用菌の活性を高め、飼料の消化率を高めプロピオン酸、酢酸が増え、乳量と乳脂肪のアップにつながる。T牧場は経産牛頭数155頭、個体乳量9,924㎏、乳脂率3.9%、乳タンパク質率3.4%、体細胞212千個、分娩間隔415日の成績である。飼養形態はフリーストール、搾乳はパイプラインでTMR給与をしている。
活性型酵母(商品名アクティサフ)を2021年12月24日から全頭に給与した。分娩頭数に大きな差が認められず、T牧場におけるアクティサフ添加前後の出荷乳量推移をバルク乳でみた(図)。
その結果、給与してから10日ほどで乳量に反応、効果を発揮している。バルク乳集荷について添加前8回、添加後32回を比較した。その結果、乳量は104%、一日150㎏増え、脂肪酸組成に影響はなくルーメンは健康であった(表)。
糞洗いすると、添加前が上段(5㎜)85%、下段(2㎜)15%が、添加後は上段50%が(下段50%)になった(写真)。
糞に長い繊維が少なくなり粗飼料の消化率が高まり、乳量へ反映されたと推測できる。場長は除糞作業中に未消化の穀類が減っている印象で、添加剤はかなり効果が期待できるとの感触であった。
アクティサフの給与でルーメン環境が改善され摂取した栄養の吸収効率、VFA産生効率が向上した可能性がある。粗飼料の不足や質の低下が懸念される牧場や月には、活性型酵母を試す価値がある。
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