乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー
テーマ1 分娩後の体脂肪動員・泌乳前期のエネルギー充足(8回)
【7回目】分娩後の体調不良は飼養管理で低下させる
飼養管理でケトン体(BHB)の低下できる
図は酪農家における個体乳量と、分娩後60日以内の潜在性ケトーシスの疑いがある高ケトン体(BHB)の関連を示している。両者に相関がなく、個体乳量が多い酪農家は体調不良と判断できる高ケトン体牛割合が高いかというと、そうではない。このことは、分娩前後の飼養管理の改善によって、潜在性ケトーシスを防ぐことが可能ということを意味する。周産期病の中でもケトーシスは、分娩後早めに発症する疾病である。乾乳から分娩前後における飼養管理を改善することで、次の疾病を断ち切ることが可能だ。
酪農家における潜在性ケトーシス罹患率のガイドラインは15%程で、この数値を上回るのは分娩後60日以内(35日以内)37%(57%)が該当する。乾乳から泌乳初期にかけて飼養管理の目安として、この数値を上回れば「管理の見直しが必要」と判断する。北海道における潜在性ケトーシスは牛群WebシステムDL「総合グラフ」「初回検定高BHB(%)」で、自家牛群が表示され全道や地域と随時比較できる。
ここ数年、急激に頭数が増え高能力化の中、すべての牛の管理を徹底することは不可能である。乳中ケトン体は価値の高い情報で、分娩後1か月以内のBHBを集中的にモニタリングし飼養管理へ活かすべきだ。
嗜好性の高い粗飼料を調製給与する
分娩前後における乾物摂取量の低下を抑えるには、乾乳期に消化性の高い粗飼料を喰い込ませる。北海道の粗飼料の主体はグラスやコーンサイレージで、その給与量は日量30㎏にもなるが、飼料分析値の酪酸含量において許容範囲を超えるものが1~2割は見受けられる。
表は4TMRセンター構成員と、所在地である地域(町)酪農家の高ケトン体(BHB0.13mmol/L以上)牛割合を比較した。その結果、分娩60日以内は地域平均7.2%(359戸)、TMRセンター2.6%(31戸)、分娩30日以内は地域平均11.0%、TMRセンター4.0%で、双方ともセンターが低かった。
TMRセンターは計画的な草地更新や適正な施肥管理など、植生改善を積極的に取り組んでいる。しかも、大型ハーベスターで踏圧、密封という調製技術も高く、酪酸発酵する割合は極めて低い。このことから、TMRセンターで調製した粗飼料は嗜好性が高く、周辺酪農家と比べて高ケトン体(BHB)牛が少ないことが理解できる。
ただ、TMRセンターに共通しているのはバンカーサイロの切り替え時に乳量減、体細胞増、体調不良、・・・など、構成員からクレームが多いという。サイロの最初と最後の部分は踏み込み不足によりBHBが高くなるので、次のサイロを開封して同時に給与するセンターもある。分娩後の体調不良を低下させるには、嗜好性の高い粗飼料を確保して給与することが絶対条件だ。
補助的に添加剤で対応する
酪農家が潜在性ケトーシス(高ケトン体BHB)を予防するには、①分娩前後は乾物摂取量の落ち込みを少なく飼料充足率を高める。②分娩時で肥り過ぎないような泌乳末期から乾乳期の管理を徹底する。③分娩直後における低カルシウム血症などの周産期病を減らす。
補助的に添加剤で対応として、プロピレングリコールは分娩3週間前から分娩日まで、1日500mlを経口投与して血中グルコース濃度を高める。グリセリンは、インシュリンレベルを高め急激な体脂肪の動員を抑制し、代謝経路を活性化して血中のケトン体濃度の上昇を抑える。
バイパスコリン(商品名スターコル)は分娩前30日から分娩後約90日まで1日50g給与することで、肝臓内の中性脂肪をリポタンパクとして速やかに排出する。それがエネルギーとして利用され乳量も増える。メチオニンの添加は肝臓の中性脂肪を適正に保ち、脂肪肝を回避して分娩後スムーズな立ち上げることができる。バイパスコリン製剤は量としては少ないものの、現場の酪農家は評価が高い。ビタミンEは分娩前後において不足しやすいため、移行期牛の肝臓や免疫細胞を酸化ストレスから保護する重要な因子である。
分娩前後の脂肪組織はストレスによってNEFA(非エステル型脂肪酸) を放出しやすく、分娩後に乾物摂取量の低下がみられる。乾乳期は過密にせず、牛の動きを制限しない快適性を優先したい。分娩が近づくと頻繁に寝起きを繰り返すため、滑らない床面を提供する・・・など、分娩後の体調不良を飼養管理で低下させるべきだ。
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