乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー
テーマ2 牛の健康はルーメンの健全にすることを最優先(10回)
【6回目】粗飼料はルーメン微生物の生命線だ
乳牛は小腸が長い草食動物だ
牛は草食動物であり、本能的に草が好きな生き物で、穀類ではなく繊維(粗飼料)を食べる生き物だ。とうもろこしの実とアルフアルフア乾草を同時に飼槽へ置いたら、乳牛は穀類より粗飼料を優先的に食べることが確認できる。
粗飼料は飼料のおよそ40から50%を占め、ルーメン微生物により発酵を促している。繊維(NDF)飼料はルーメン、第二胃から四胃、下部消化管の動きを活発にして消化を高める。
結果として、乾物摂取量を増やし安定した乳生産、良好な繁殖を得ることができる。
その証拠に小腸は面積が広く粘膜に接触させ、食べた物を消化し栄養素を吸収する。小腸の長さは草を食べる羊が体長(頭からお尻までの長さ)の25倍、牛20倍、猫4倍、犬5~6倍と比べ極端に長い。
人はセルロースやヘミセルロースのような繊維質を分解する酵素を持たないため、利用することができない。人からみるとエネルギー源として価値の低い粗飼料だが、草食動物にとって自然界で生き抜くための勝ち得た巧妙なシステムだ(写真)。
粗飼料はルーメンに重要な働きをする
ルーメンは牛の腹腔の左側ほとんどと、右側の後ろ半分を占める巨大な嚢で胃全体の8割を占める。粗飼料はルーメンマットを形成、反芻を誘発してだ液を産生、ルーメン内の恒常性を維持する(写真)。
ルーメンマットで摂取した飼料や細かな穀類を捉え、微生物を住まわせ消化を受けて分解する。
だ液の主成分は重炭酸ナトリウムで、他にりん酸塩が含まれており、pH8.5前後のアルカリ性だ。発酵で生成される酸を中和、ルーメン内の酸性化を緩衝して良好な発酵を保つ。
だ液は1日に約100~180リットルを分泌するが、飼料摂取時と反芻時に多くなる。
牛は適度な粗飼料が給与され、快適な環境での横臥は反芻行動が促進され、持続的にだ液を分泌しルーメン内へ十分な量を供給する(写真)。
粗飼料の質量は牛の健康に影響する
分娩後、疾病が多発している酪農家群(10戸618頭)と、少発酪農家群(9戸1059頭)の経過日数別乳脂率の推移を調べた。
多発農家群は経過別に乳脂率が0.20%、100日以内に限定すると0.25%ほど低かった。乳脂率はルーメン内で産生する揮発性脂肪酸(VFA)中の酢酸量であり原料は繊維(粗飼料)だ。
ただ、粗飼料は刈取り時期・発酵過程・保存状態により、品質に大きく影響を与える。耕起、播種、収穫まで長期間にわたり、予想のつかない天候の影響を受ける。
過去、北海道における気象状況と第四胃変位の発症状況をみたが、雨の多い年は多発していた。このような年は粗飼料の品質に問題があり、採食量が十分でなく、ルーメン容積に空隙が生じて第四胃変位が発症する理屈だ。
さらに、粗飼料が悪いと選び食いが行われ、濃厚飼料の過剰な摂取で乳酸が蓄積し蹄病が発症する。乳生産だけでなく疾病や繁殖に最も影響を与え、泌乳初期の乾物摂取量を決定づけるのは繊維だ。
牛づくりは草づくり土づくりだ
個体乳量は年々急激に伸びているのに対し、粗飼料の品質、栄養価が改善されていない。
1970年から2014年の米国26の研究機関が調査した結果、44年間で乾物摂取量1.72倍、乳量1.99倍に急激に増えたが、乾物消化率、NDF消化率は全く変化ない(S.B.Pottsら2017)。
北海道における草地更新率は、平成5年に6%前後であったものが、22年2.8%、28年3.0%まで低下している。関連する事業が減少したこともあって、石灰やリン酸などの土改剤が適正に投入されていない。
その結果、土壌はpHが低くなり、播種したチモシーやアカクローバが消え、踏圧に強い草だけが優先してきた。ギシギシやレッドトップからシバムギ、メドウフォックステールなどの地下茎イネ科雑草が増えてきた。
北海道各地で草地の草種構成の調査を行なわれているが、半分は雑草というショッキングな報告がなされている(写真)。
雑草は牧草と比べ極端に出穂が早く、栄養価を下げ、WSC(水溶性炭水化物)が少ないため、乳酸発酵しづらく採食量を落す。
牛は草食動物であることを考えると、良質なサイレージや乾草などの繊維を欲しがる。
まさに、昔から言われている「牛づくりは草づくり、草づくりは土づくり」から始めるべきだ。牛の健康はルーメンの健全にすることを最優先で、粗飼料はルーメン微生物へ活力を与える。
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