乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー
テーマ1 分娩後の体脂肪動員・泌乳前期のエネルギー充足(8回)
【4回目】肥り過ぎは分娩時にトラブルが生じる
時代とともに過肥が問題になってきた
自然界での草食動物は広い草原でただひたすら歩き、栄養価の低い野草を中心に一日中食べ続ける。そのため、極端に肉が付くことなく、ボデイコンデション(BCS)の調整はしなくても良かった(写真)。むしろ、多くの野生動物は食べるエサが少なく、エネルギーの充足できず痩せる方が問題であった。
時代とともに、牛群の中でも過肥牛が増えて問題になってきた。原因は空胎日数の長期化が、搾乳日数ではなく乾乳日数が延びることによるものだ。乾乳日数70日以上割合の頻度をみても、平均は23%ほどだが、50%を超える酪農家も存在している(図)。さらに、一戸あたり頭数が急激に増え群管理、TMRの普及である。最近はエネルギーの過剰給与が目に見えず、内臓に脂肪が付着するメタボリック症候群が問題になってきた。
乾乳時点におけるBCSの推奨値は時代とともに変化、1980年当時は肥り気味のスコア4にして乳量を搾る考え方であった。その後、1990年3.75、2000年3.5、2010年3.25と軽い方が牛の健康に良いと判断された。分娩時の最適なBCSは2.75がベストだという意見もある(Dracklek2016)。
従来、乾乳時点のBCSは3.5にして分娩時まで、太らせない痩ない状態がベストと考えられていた。しかし、現場からも研究側からも、やや肉を落とした3.25程度の方が、体調は良好で分娩後の乾物摂取量を高めそうだ。
過肥は周産期病のリスクが高い
肉食動物は獲物を腹いっぱい食べると、草食動物が素通りしても見向きもしない。しかし、牛は人工的な施設で高栄養のエサが十分にあれば、腹いっぱい食べ続ける生き物だ。ただ、肉が付くほど、分娩後のエネルギー要求量に見合うだけの飼料を摂取できず採食量が落ちる。分娩前のBCSが1増えると、第四胃変位の発症する危険性は2.4倍まで高まる。泌乳中~後期のBCS3.25以上の牛に栄養価を下げた飼料を給与した結果、第四胃変位は12.5%から4.8%へ低下した(道立畜試2004)。
BCSが3.25以下の牛は、無介助分娩率が94.4%とBCS3.5以上の牛の67.9%と比較して高い傾向があり 分娩後の繁殖成績もおおむね良好であった。分娩介助を低減するためには乾乳期のBCSが3.5以上にならないように調整 することが必要だ(道立根釧農試2008)。
表は疾病と過肥の指標値である前乾乳日数と前分娩間隔を示しているが、双方とも健康牛と比べてどの疾病でも延びている。過肥牛は泌乳初期の乾物摂取量が低下し乳量は伸び悩み、周産期病などのトラブルが生じ、初回発情遅延・受胎率低下で繁殖に悪影響だ。今乳期の受胎が遅くれると肥り、肝臓機能が低下し次の乳期でも同じことが繰り返される。乾乳期間90日もしくは分娩間隔455日以上の牛は、群の中でも滞在日数が長く乾物摂取量が多くなる。肥り過ぎの牛は他の牛より疾病のリスクが高いため、エサと管理を徹底すべきだ。
今後は均一な牛群づくりが重要だ
頭数が増えるほど牛の大きさ、BCS、搾乳スピード、強い肢蹄、・・・など、均一性が求められている。牛群が揃っているほど、パーラーまでの移動や搾乳時間の短縮など作業効率が高まる。
飼料設計は群の平均乳量にあわせて濃度設定をするが、最高位と最下位の個体牛を除外する。リードフアクターは格差が大きいほど、平均乳量に対して1.2~1.3倍の係数を乗じなければならない。牛群は揃っているほど多くが該当することになり、乳へ反映される割合が高い。
図は延べ26戸、搾乳牛799頭のBCSをチエックしたが、分娩後経過日数とともに高くなる。適当な搾乳牛のBCSである2.75~3.25は76%だが、極端な痩せ14%、肥り過ぎ10%もあった。設計を難しくしているのは同じ経過日数でも牛個体間のバラつきがあり、酪農家で小型から大型、削痩から過肥と差があることだ(写真)。
牛個々が揃っている酪農家、混在しているところがあり、牛舎を一周してみれば飼養管理レベルが理解できる。そのキーポイントは乳量、繁殖と疾病であり、バラつきが小さい酪農家ほど技術的水準が高く作業効率が良い。今後は規模拡大に伴って労働力不足もあり、均一な牛群づくりが極めて重要だ。
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