乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー
テーマ4 牛の快適性を追求して健康と乳を最大にする(10回)
【10回目】健康と快適性を追求して反芻を促す
反芻は健康で乳量が高い
牛、羊、山羊は草を喰べて体が大きくなり、乳を生産するので草食動物と言われている。共通しているのは、第一胃から第四胃まで四つの胃で発酵タンクをもっている反芻動物でもある。これは大きな容積のルーメンを有しているから可能で、自然界で生き延びる大きな武器だ。
体調が悪くなると頭を下げて首を伸ばした姿勢をとり、人が通っても注視しない。ひどくなると、頭を動かさず違うところをみて焦点が合わない・・・など、行動と姿勢で見分けることができる。ケトーシス、乳熱や第四胃変位などに罹ったり、体調が優れない牛は生命の維持だけでそんな余裕がない。
周産期病や乳房炎は診断される数日前から反芻行動が減少するので、潜在性の段階で早期して発見対応が可能だ。分娩予定日前から反芻の弱い牛は、予見して看護することで低Ca血症を低減した事例もある。
一方、分娩が近づくと採食量が落ち残飼が増えて当日は喰べず、ルーメン内に飼料原料がなく噛み返しも行われない。ある酪農家は分娩するかどうかは、残食量と反芻行動で判断していた。反芻行動で健康度が判断でき、乳量の高い酪農家ほど、採食時間だけでなく反芻時間も長くなる(表)。
反繊維は反芻を促しだ液をだす
快適な環境での横臥は反芻行動が促進され、持続的にだ液を分泌しルーメン内に十分な量を供給する。
牛は草食動物で粗飼料(繊維)を喰べる生き物で、穀類が多くなると短くなる。反芻行動はルーメンへのだ液流入量も増加するので、pHを適正に保つため重要な役割を担っている。
一日100~143Lほどのだ液を出し、ph9の発酵酸で中和する(Maekawa2002)。反芻時の姿勢とだ液の分泌量は一分間に休息時150mL、採食時177mL、反芻時300mLである(表)。
咀嚼時間が一日600分であれば、休息や採食時およそ100L、反芻時180Lになる(写真)。
反芻は乳量の多少で大きく変わることはないが、高乳量牛は起立より横臥時間が長い。初産牛は口やルーメンが小さいこともあって、顔を下げて顎の回転が小さく、途中で中断しながら弱い。
高産次牛は顔を高めに上げ、泡を口いっぱい溜めて、食塊を咀嚼するのに多くの時間をかけ、リズミカルで効率的に行う。
乳牛のルーメン内容物は階層構造を有しており、繊維などの比重の軽い飼料片が硬いマットの塊を形成している。これが、ルーメンマットで背嚢上皮に対して接触刺激をもたらし噛み返しが行われ、マットの堅さと厚さの積は反芻時間と正の関係にある。
人からみるとエネルギー源として価値の低い粗飼料だが、乳牛にとって自然界で生き抜くための勝ち得た巧妙なシステムだ。牛は本能的に草が好きな生き物で、繊維(粗飼料)は生命線であることが分かる。
反芻は快適な環境で行われる
牛は喰べたエサをルーメンに貯蔵し、夜の静かで安全なところでゆっくりと繊維を噛み砕く。飼料を採食した後、飲み込んだ物を吐き戻し、だ液と混ぜながら咀嚼する。
パーラー内でも換気を良くし、過搾乳することなくリラックスで気持ちがよければ豪快に行なう(写真)。緊張状態や普段聞きなれない、過密状態では噛み返しが行われない。
新築牛舎で新たなレイアウトへ移動すると、馴れるまでしばらく横臥することなく起立する姿が続く。強制的に移動すると緊張して動き回るが、時間の経過とともに安心するためか反芻を始める。牛は環境の変化に対して、適応する能力が高いことを意味する。
暑熱時はストールで横臥することなく、起立し続けて噛み返しの姿はみられず、口は半開きの状態で一時停止し不自然な動きが確認できる(写真)。飼槽周辺は白い泡状の塊が付着し、あちこちに点在する。
牛床を整備清掃し、敷料を豊富に投入することで、横臥だけでなく反芻の回数と時間が増える。
搾乳時間を除いた乳牛の一日の行動は、およそ牛床横臥53%、牛床佇立15%、採食22%である。
しかし、酪農家間に明らかな差がみられ、牛床構造によって横臥しやすさ、1ストール当たりの頭数が異なる。
最近の搾乳ロボットは反芻時間が表示され、快適な環境の指標としても活用ができる。このことから、牛の健康と快適性は反芻の時間とイコールで、促す管理が求められている。
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