乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー
テーマ4 牛の快適性を追求して健康と乳を最大にする(10回)
【参考】牛との信頼関係が重要になり若齢期に行う
頭数増で関係が重要になってきた
乳牛の健康を保ち、乳生産を最大にするためには、快適性の追求が必須条件だ。
多くは横臥、採食、飲水、歩行・・・など、自然な姿勢行動を促す物理面・管理面が中心になる。ただ、管理する人が乳牛への接触面について、見落とされがちだが極めて重要な項目だ。
牛との信頼関係があれば移動、搾乳、授精や治療を施すとき、自然に近づいて短時間で処理して作業を早く終えることができる。浅ければ管理する人と牛双方に、無駄な動きと動揺を与え、歩行速度や距離が増え、肢蹄に余計な負担がかかる。
多頭数を効率的に管理する方式が増えて、機械化・コンピユータ化で作業性を優先、省力化に繋がったが、牛との触れあう時間が確実に減った。
ここ数年、外国人や経験不足の労働力が増えており、個別の技術に対する知識が不足し経営者が意図することを理解していない。目的を達成するために作業工程のマニュアル化だけでなく、牛とのコミュニケーションをとって信頼関係の構築が求められている(写真)。
人と牛の信頼関係は若齢期に行う
管理者が穏やかなところは牛も穏やかになるという傾向があり、乳量にも反映する。
最初に経験する分娩時、移動時、捕獲時、搾乳時など、不安を感じるとき、人の指示を仰ぐ時がチャンスだ。蹴らない、叩かない、怒らない、急がせない、大声を出さない…人と牛との良好な関係を日頃から維持すべきだ。
酪農家へ行って牛舎へ入ると、牛の反応に差があることがわかる。生まれてから若いときに手をかけることは、信頼関係が成牛まで長期間にわたって持続する。ほ乳などの幼少期にいかに触れあうか、人が敵ではなくフレンドリーと思わせるかである(写真)。
人の都合で、成牛になってからあわてて信頼を構築しようとしても容易なことではない。
なお、人の場合は賢くなるよう頭に手をあててなでるが、牛は仲間が舐めあう部位である首をなでるべきだ。
国際的な動物保護団体である WAP(世界動物保護協会)は世界の動物保護指数を発表した。アニマルウェルフェア (動物福祉)の観点から各国の法律や政策を評価した。
乳牛などの家畜福祉について、日本の評価は7段階中最低の「G」である(2021)。
注目すべきは酪農が肉牛より一日2回、305日搾乳、育種改良、疾病多発、舎飼い期間などからアニマルウェルフェアを妨げるリスクが高い(コペンハーゲン大学 2022)。
世界中でSDGs(持続可能な開発目標)の達成が叫ばれる中、日本も乳牛家畜福祉への対応が求められる。人と牛の接触はあらゆる面でプラスなので、若齢期に行うべきであろう。
恐怖は記憶に永遠に残っている
牛は臆病で警戒心が強く過去の恐しさは覚えており、嫌なことや苦痛を伴う行動を学習する(写真)。
恐怖を感じた記憶は永遠に残り、敵と感じたものに対して自分の身を守るため激しく抵抗する。
牛は快適な方へ自ら進んで行くのが本来の姿で、嫌なところへ追って誘導するのは最小限にすべきだ。
授精や治療で移動を行う際、強制的に追えば一時的に時間を短縮することができる。しかし、以後、作業に時間がかかり、労働効率を悪くし、牛はストレスを増幅して免疫機能を低下させる。
わずかな時間を節約したからといって、損することはあっても得することはない。牛へのハンドリングが上手いかどうかで、作業者のストレスを低減し労働時間を大幅に削減できる。
牛は習慣性の生き物であり、新たな環境へ移動しても、同じ人によって管理され、優しく接触されることを望む。
ただ、時の流れとともに育種改良が進み、気の荒い野生味のある牛は淘汰され、従順で温厚な牛が残ってきた。「乳量が出る、おとなしい、扱いやすい」ということは、逆に、人にとってモニタリングが難しくなる。
ホルスタインは人に順応するように改良されてきたため、乗駕行動は短く密かにきて、表面に出さなくなってきた。発情や体調の悪いなどの異常牛を見つけるためには、わずかな変化を見抜けるかで、人の目も改良する必要があるようだ。
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