乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー
テーマ5 管理によって子牛の健康と良好な発育(10回)
【4回目】生まれた子牛は免疫力が必要だ
子牛は自ら吸い付き初乳を飲む
自然界では自力で初乳を飲めない衰弱した子牛は、肉食動物の恰好の餌食になる。
そのため、生まれると30秒以内に呼吸を開始、2分で頭を起こし、5分で座り、20分で立つことを試みて60分ほどで起立する。
ほ乳の姿は母牛の脚をくぐりぬけお腹の下にもぐりこむため、子牛の首は短く顔が丸くなっている。頸を一度下げて頭をあげる姿勢が、食道溝反射によって第一胃ではなく第四胃へ流し込んでいる(写真)。

首が真っ直ぐ伸びると、第一胃に流れ込み未熟な細菌叢ができているため異常発酵がおきる。生まれたばかりの子牛は体が小さく肺機能も劣り、動きが鈍く消化吸収ができず下痢が発生する。
乳首の高さは60cmほどなので、ほ乳瓶の高さをその位置にすると自然な姿勢になり、誤嚥を防止するだけでなく呼吸器疾患を減少、発育を良好になる(写真)。

虚弱で生まれてきたら藁や布で体を乾かし、お腹を中心にマッサージをする。最近、普及してきたカーフウオーマで暖めると、活力が高まり初乳を飲む意欲が増す。
母牛の存在が免疫力を高める
野生動物の場合、母が子へ乳を与えている間は、雄からの交尾を許すことがない。自然界では小さく弱い子を守るためにも授乳は極めて重要で、最優先に考えているのだ。
同時に、子が親に密着しながら生きる術を身につけるので、幼少期のアタッチメントは免疫力を高める。
出生15分後に母牛から離した群と、授乳を受けられないようして18時間を母牛と一緒に飼育した。
両群に同量の初乳を給与した結果、血中IgG濃度は母牛とともに飼育した群は隔離した群より70%多かった。
ただ、45kgの子牛に3.8Lと大量にIgGを給与した場合は吸収部位が飽和、母牛の存在が吸収率を高めるまでに至らなかった(Selmann 2011)。十分な初乳を飲めなかった場合、母牛の存在が吸収率と免疫を高めたことを意味する。
また、初乳を搾る3分前から搾乳中にかけて母牛へ子牛を見せたら、初乳のIgG濃度が増えたという報告もある。人も牛も母親が近くにいることで安心感を与え、初乳の吸収率を高め、プアラスアルファの効果がありそうだ。
ここ数年、規模拡大により、親子分離を早めに行う酪農家が増えてきたが、そのようなところであれば十分な初乳摂取が絶対条件になる。
一方、母牛と同居期間が長いほど乳は汚染されて、IgGが腸管内で細菌と結合され吸収効率を低下させる。牛と同居期間2~4時間が斃死率約5%、7~24時間10%、24~48時間20%を超える(米農務省)。
母牛と一緒に長期間置くと、細菌汚染により初乳の吸収率が下がり斃死率が高くなる。筆者は生後3時間を目安に母子分離して、管理は人が行うことを刷り込むべきと考えている。
酪農家が耳標を装着してから生後0か月齢に死んだ牛は、北海道が3%ほどにも達する。生まれてから母牛になるまで若牛が死ぬということは考えられず、新生子牛に集中し免疫力が必要だ。
満足すると静かに横臥する
成牛の横臥時間は一日あたり10時間ほどだが子牛は18時間で、一日の4分の3は床に横たわっている。
一回の持続時間は60分程度で、健康な子牛ほど長く、敷料は4本の肢蹄が埋まるように投入する(写真)。

適度な気温で新鮮な空気があれば、太陽光線にあたるなど快適な位置へ移動し免疫力が高まる。
過密になると牛床が汚くなり、子牛が病気をかかえ、子牛の発育のバラつきを生む。牛舎の中で、一部に群がる位置は温度、空気の質、床面・・・居心地が良いのだろう。
酪農家は子牛の姿をみて勘違いすることが多く、立ち上がって落ちつかず鳴く牛は、元気なように見えるが空腹なだけだ。群全体が満足した牛は鳴く回数が少なく、横臥して畜舎内が静かな光景がベストだ(写真)。

本来、牛は大草原の中で多様な生き物を見聞きし、脳に刺激を受けながら成長し生命力が育まれる。
したがって、狭くコンクリートの壁に囲まれた暗いところでなく、明るく開放的なところで子牛を健やかに育てることが大事だ。
子牛の健康は「よく喰べて(飲んで)よく寝る」という基本的考え方はいつの時代でも変わらない。子牛の健康と良好な発育は生まれた直後の免疫力だ。
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