乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー
テーマ2 牛の健康はルーメンの健全にすることを最優先(10回)
【4回目】ルーメン微生物の活性化で乳脂率を高める
ルーメンは不飽和脂肪酸が苦手だ
ルーメンは巨大な臓器であり、その内部には膨大な量の飼料が蓄えられ、日夜休むことなく微生物によって飼料の発酵が行われている。ルーメン微生物を活性化することは乳量だけでなく、乳脂率を高めることができる。
乳脂肪はグリセリンと3つの脂肪酸からできており、給与するエサの脂肪含量とも関連する。
脂肪酸は複数の炭素が鎖状に繋がった形をしており、その数と結合状況によって種類が決定する。
炭素の二重結合「C=C」の不飽和脂肪酸は微生物にとって毒なので、水素を添加して飽和化するが、うまくいかずそのままの不飽和脂肪酸や中途半端なトランス脂肪酸になる。
飽和脂肪酸は肉の脂やバターなど固体であるが、不飽和脂肪酸は植物性のサラダ油やオリーブオイルなどは液体で微生物に害を及ぼす。
粗飼料は放牧草、濃厚飼料は綿実や大豆などの植物性油脂はルーメン微生物にとって苦手の不飽和脂肪酸が多い(写真)。
さらに、繊維が豊富で嗜好性の高い中間飼料の醤油粕、ビール粕、豆腐粕、焼酎粕は粕類やDDGSが該当する。
これらの脂肪酸は乳腺細胞つくるデノボ脂肪酸合成を阻止し、乳量や乳脂率低下の数日前に数値として現れる。
バイパス油脂で乳脂率が高くなった
一方、ルーメンで溶けない脂肪酸カルシウム塩など、バイパス油脂が普及してきた。
K牧場は乳量アップと乳脂率維持を目的に、新たに飽和脂肪酸であるC16のパルミチン酸80%(商品名 パームフアットYPT)を一日一頭あたり330g添加した。
その結果、添加前後における6ヶ月は、乳量だけでなく、乳脂率は3.85%が添加後4.03%と0.18%高くなった(図)。
脂肪酸カルシウムは過度の体脂肪動員を防ぎ、泌乳ピーク量を高めるだけでなく乳脂率もアップした。
さらに、泌乳初期のエネルギーが充足したため、発情発見率が高まり空胎日数が短縮し繁殖成績も改善された。
油脂添加量は基準値以内とする
油脂は分娩後の体脂肪動員を抑える、泌乳前期の飼料エネルギー充足を高めるが、ルーメン微生物の悪影響が懸念される。
そこで、K牧場について油脂添加後のバルク乳20旬の脂肪酸組成は、ルーメンから生成されるデノボ脂肪酸(De novo FA)は28.6%ほどで北海道平均と大きな違いがなかった。
同様に、I牧場におけるパームフアット添加前後の各10旬の脂肪酸組成を確認した。
その結果、デノボ脂肪酸、エサや体からくるプレフオーム脂肪酸(Preformed FA)は大きな違いがなかった(表)。
このことから、油脂を添加しても基準値以内であれば、ルーメン微生物に害を及ぼすことはなかった。
ただ、ルーメンをバイパスといっても油脂はルーメン発酵に影響する可能性があるので、乾物摂取量低下を抑えるため乾物中7%以内とする。
通常、粗飼料や濃厚飼料の脂肪含量3%ほど含まれているので、油脂添加は4%が限界とすべきだ。
自家の構成飼料から油脂のタイプ、泌乳ステージ、乳量レベルを考慮して添加量を見極める。
微生物を活性化する管理をする
ルーメン微生物にとって、pHの低下によるルーメンアシドーシス状態は苦手だ。
ルーメンマットがルーメン壁を機械的に刺激し、噛み返しが起こなわれる。反芻は微生物の住環境を良好にすることで大量の唾液が分泌、発酵によって生成された酸が中和され、ルーメン環境を健康に保つ。 微生物にとって快適な住環境は、硬く充実したマットが形成されたルーメンということになる。
飼料設計で微生物のエサとなるデンプンとルーメンマット形成する繊維のバランスをとる。乾物中の脂肪含量(特に不飽和脂肪酸量)を基準値以下とする(写真)。
給与する脂肪はルーメン環境によって、乳脂率を高めることができるが、下げることもある。
さらに、選び喰い、固め喰い、早喰いが行われると、ルーメンアシドーシス状態になり、水素添加で不飽和から飽和へ転換できない。
暑熱期、移行期、厳寒期・・・、食い込める牛周辺の環境が脂肪酸へ反応する。このことから乳量や乳脂率を高めるためにはルーメン微生物を活性化する近道だ。
酪農の飼養管理に関する技術的項目は数多くあるが、その中心はルーメンであり牛の健康だ。
乳脂肪がルーメンからか、給与しているエサからか、体の脂肪からか。
乳脂肪が高いからといって誇れるものでもなく、どこから生成される脂肪酸なのかが問題となる。
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