乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー

テーマ1 分娩後の体脂肪動員・泌乳前期のエネルギー充足(8回)

【1回目】分娩後に体調不良で多くの廃用がでている

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分娩後に多くの死廃がでている

 乳生産を最大にする、良質乳を生産する、健康な子牛を育てる、受胎を良くする・・・など、全ての出発点は母牛の健康である。どのような細かな技術を駆使管理しても、これを無視することはできない。
 しかし、現場の酪農家の疾病状況をみても、増えることはあっても減ることはない。乳用牛頭数の減少は繁殖悪化や子牛の死など考えられるが、分娩事故やその後の周産期病でやむなく搾乳牛の廃用である。母牛の分娩時状況は子牛の死産や介助、難産や双子は体へのダメージが大きく関連性は高い。
 図は北海道における酪農家3,890戸の分娩後60日以内母牛死廃率の分布を示した。平均6.2%であるが0%(およそ1割)から20%を超える酪農家があり広い範囲に分散していた。死廃は分娩日15%、1か月以内34%、3か月以内53%と、多くは分娩後1~2か月に集中している(図)。 

北酪検

 分娩後60日以内における母牛の除籍要因としては、起立しない、歩行しない・・・など、治療不可能で淘汰というより体調不良牛で死廃の意味合いが強い。これから本格的な生乳生産を期待していただけに、農業者の意志に反しての除籍は経営に大きなダメージとなる。
 肉食動物は強い親が守ってくれるため妊娠期間が短い、小さく生む、数が多い、お産が軽い・・・。草食動物は自ら逃げられる骨格が必要なため妊娠期間が長い、大きく生む、数が少ない、お産が重い・・・。しかも、肉食獣から身を守るため、手肢は発達した状態で分娩を迎えなければならず、頭からでてくるので難産になり易い。そのため、乳牛にとって分娩という行為は子牛だけでなく、母子にとっても事故のリスクが高く死廃の可能性がある(写真)。


周産期病は酪農家間で毎年同傾向だ

 図はある地域の酪農家100戸の経産牛に対して周産期病について、本年と昨年の2カ年の関連をまとめたものである。周産期病は乳熱、ケトーシス、産褥熱、胎盤停滞、第四胃変位、子宮脱とした。年間の経産牛に対する発症率は周産期病全体で平均21%だが、その幅は3〜50%と完全に予防している酪農家と頻繁に発症している酪農家があった。本年と昨年の2カ年における関係は高く、ほぼイコールと考えるべきだ。
 周産期病の中でも分娩後発症する高い乳熱について、経産牛に対する割合で2カ年の関連をみた。経産牛に対する発症率は平均9%だが、その幅は0〜32%と完全に予防している酪農家と頻繁に発症している酪農家があった。本年と昨年の2カ年における関係は決定係数が0.744と極めて高く、こちらもほぼイコールと考えるべきだ。疾病多発農家は、なんらかの管理を見直さないかぎり、次年だけでなく3年後、5年後も低減しないことを物語っている。
 一方、経産牛に対する周産期病発症割合は、飼養頭数と(r=−0.251、n=100)が弱いマイナス、個体乳量(r=0.159、n=100)と相関はなかった。周産期病や乳熱発症に共通することは、①酪農家間で差が大きいこと、②毎年同傾向であること、③飼養規模や個体乳量に関係が低いことの3点である。このことから、牛自体の問題というより酪農家個々のエサと管理によりところが大きい。獣医師が頻繁に来る酪農家は飼養管理を見直し、根本的に解決するべきだ。


廃用は一乳期の中で分娩後に集中する

 図は酪農家における分娩60日以内母牛除籍率と、年間除籍率の関係を示しているが両者の相関は高い。一年間に除籍する牛は乳期全体にバラツクことなく、泌乳初期に乳房炎や周産期病が集中する時期と一致する。
酪農家の中には、わずか2カ月間で分娩牛12頭中8頭が乳熱を発症したことを確認している。このことから、廃用は一乳期の中でも泌乳中期から後期に罹る確率が低く分娩後に集中する。
 牛は体調不良になっても時間をかけて少ないエサを食べ続け、平然を装う生き物だ。そして、病状が深刻となり、体力が落ちて極限状態になると、ある日突如として寝込む(写真)。牛は生きていくための知恵として、体調の悪いことを周辺から悟られないように行動するのだろう。時の流れとともに乳牛の育種改良でおとなしくなり、管理する人は牛の体調変化を早めに読み取らなければならない。

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