乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー

テーマ3 乳牛の分娩前後をスムーズに移行(10回)

【4回目】分娩後に体調を崩し疾病につながる

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周産期病は酪農家の管理である

 自然界での牛は仲間と好きなときに喰べ、飲み、寝る生き物で自由が保証されている。しかし、人為的に飼われると、牛の本能や習性を理解して管理しているところと、そうでないところがある。

 酪農家100戸の本年と昨年の2カ年における周産期病(乳熱、ケトーシス、産褥熱、胎盤停滞、第四胃変位、子宮脱)の関連をカルテから拾った。年間の経産牛に対する発症率は周産期病全体で平均21%、その幅は3〜50%と完全に予防しているところと頻繁に発症している酪農家があった。経産牛に対して周産期病発症率は、2カ年における関係は同じ傾向で、ほぼイコールと考えるべきだ(図)。

 その中でも分娩後最初に発症する乳熱は経産牛に対する割合で2カ年の関連をみた。平均9%だが、その幅は0〜32%と完全に予防しているところと頻繁に発症している酪農家があった。本年と昨年の2カ年における関係は極めて高く、こちらもイコールと考えるべきだ(図)。

しかも、乳熱が多発する酪農家は産褥熱、第四胃変位、低Ca血症、後産停滞など関連する疾病の発症割合が高い傾向にあった。疾病多発農家は、なんらかの管理を見直さないかぎり、次年だけでなく3年後、5年後も低減しないことを物語っている。


高産次ほど周産期疾病が増える

 乳牛であっても、人と同じように年齢が進むほど、病気になりがちで治癒まで時間を要する。M農場における産次別治療状況と血中カルシウム(Ca)濃度を確認した。

初産牛は自家治療(軽症)のみで8%、2産牛は22%、6産以上牛は獣医師治療(重症)が中心の83%だった。産次が進むほど周産期病が増える傾向にあり、治療は自家から獣医師へシフトしている。とくに4産目からは、治療割合が5割前後と極端に増えていることが注目される(表)。

一方、分娩後2ヶ月以内における産次別の治療治癒状況と回数を確認した。
その結果、初産牛は治癒率88%で治療期間29日、3産は84%、32日、6産以上牛は79%、33日であった(表)。

高産次は治癒率が低下し、回復までの治療回数は増え、期間は長引き、次の疾病へ発展する可能性が極めて高い。     

 そのこともあって、北海道の牛群構成は初産33%、2産27%、3産18%、4産11%、5産以上11%と年々若齢化の傾向を示している(北酪検2022)。産次が進むほど乳量は増えるが周産期疾病のリスクが高まり、細かな配慮が望まれる。


疾病の悪化は損失が大きい

 疾病や繁殖を改善できない最大の要因は、損失額を明示できないため技術を提供しても説得力がないことが考えられる。乳質は体細胞などのペナルテイーや出荷停止の制裁によって、経済的損失を明確にしやすい。

 疾病がまったくない(1年間カルテがない)健康牛2577頭と、第四胃変位罹患牛86頭の2本の泌乳曲線を確認した。健康牛は乳量が分娩後数日でピークに達するものの、四変牛は分娩後に低く60日前後である(図)。

 従来に比べ、遺伝的改良と飼養管理の改善もあって、すみやかに乳量が上昇する。しかも、牛の体が大きく、肉付きが良い牛は疾病の危険性は高いものの泌乳初期の乳量は最大になる。分娩前後にトラブルがなくスムーズに移行した牛は喰い込みも良く、乳生産が高く所得へ結び付く。

 一方、分娩間隔の短い酪農家11戸381頭、長い酪農家11戸441頭における乳中尿素窒素(MUN)のバラツキをみた。分娩間隔の短い群は適正範囲の8~16mg/dlの中に82%の牛が入っているが、長い群は70%で広い範囲に分散している(図)。

このような酪農家群はMUNだけでなく、乳量や乳成分、個体牛間のバラツキが大きくなる。疾病の多発酪農家と少発酪農家の群を経過月で分析しても同様なことが言える。

 頭数が増えるほど牛の大きさ、ボデイコンデションスコア(BCS)、乳房の大きさ、肢蹄の強弱など均一性が求められている。結果として、個体間格差が小さくなり、パーラまでの移動や搾乳時間の短縮など作業効率が高まる。

さらに、飼料設計においても設定した群の大部分が該当し、乳生産へ反映される。疾病や繁殖の悪化は乳生産だけでなく、労働効率においても損失が大きいことを意味する(写真)。

乳牛は一乳期の中でも、分娩後に体調を崩し疾病につながる。

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