乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー
テーマ3 乳牛の分娩前後をスムーズに移行(10回)
【3回目】母牛は分娩前後に動きが変わる
母牛は採食・横臥行動が変化する
自然界であっても出産(分娩)は牛にとって命がけの仕事であり、特別な配慮が求められる。日時を特定することは事故を防ぐだけでなく、子牛や母牛のケアーを適切に対応ができる。
分娩が近くなると、
①採食量は減って給与量の3割以上の残食がでる。
②採食回数は変わらないが時間は4割ほど減る。
③反芻は次第に少なく当日はほとんどなくなる。
④横臥する時間は減り、頻繁に寝たり起たりを繰り返す。
⑤排泄しないのに背中を丸めたり尻尾を上げたりする。
⑥床の臭いを嗅ぎまわり生むポジションを隅の壁際周辺を探す・・・など不自然な動きがモニターできれば12時間以内に分娩することを覚悟しなければならない(写真)。
最近は監視を効率化して、分娩日時をあらゆる角度から見極める方法が普及してきた。
①母牛体温が前日より0.4℃以上も下降したら、24時間以内に分娩する。
②尾静脈から血液を採取し簡易測定器で血糖値を測定、82mg/dl以上か前回より18%以上高くなると24時間以内に分娩する。
③温度センサーを牛の膣内へ挿入して体温低下で段取り通報、体外へ排出されることで分娩が始まる・・・(写真)。
現場ではICT(情報通信技術)の活用で分娩状況が的確に判断できる。ただ、母牛の行動が変化することを考慮して予測すべきで、機器は補助的に使うのが本来の姿だろう。
これを可能にするのは繋ぎっぱなしで拘束することなく、自由な動きを保証しなければならない。
単独行動で我が子との絆を築く
牛は草食動物であり逃げ足が速いわけでもなく攻撃的な武器を持たず、肉食動物から常に脅かされる存在だ。
弱者である牛が種を存続させてきたのは、個より群で生活することが、外敵から身を守ることができ、社会を形成したからなのだろう。
分娩間近になる数時間前から群から一時的に離れ、身を隠すスペースへ移動し単独行動がみられる。しかも、川の淵のような蹄が埋まり踏ん張ることができ、水が飲めるところを選ぶ。これは捕食者から襲われる危険は増えるが、我が子との絆を築くことを優先したものであろう。
人為的にプライベートスペースエリアを設けることで、母牛の8割は隠れたところへ移動して分娩する。初回の横臥陣痛から分娩までの時間は「なし」は124分、「あり」が98分、分娩難易度は「あり」が「なし」より低く、子牛が起立を試みる時間は「なし」は47分、「あり」が36分、(ウイリアムマイナー)。
プライベートエリアで過ごす時間は健康牛より体調が悪い牛ほど、夜間より日中の時間帯の方が長い。明らかに、身を隠すエリアを設けることで、母子双方に有利な点が多い。
現場でもフリーストール牛舎でベニア版を立てて、プライベートエリアを設置するところがでてきた(写真)。
このことを考えると、牛は直前まで群とともに過させ、陣痛が始まって子牛の肢が見えてから分娩ペンへ移動させるべきであろう。
ペンの中央ではなく壁際で生む
乳牛の分娩場所はペン中央ではなく、隅で生む習性があり、牛と人の双方にトラブルが生じる。広いスペースがあるにも関わらず、直前になると壁際で床面の臭いを嗅ぎまわり分娩場所を探索する(写真)。
その結果、子牛は壁と母体の間に挟まり、圧死という痛ましい事故が現場で発生する。
ビデオカメラはペンの上部へ設置、住宅等で牛を遠隔操作して、携帯電話で分娩状況をリアルタイムでみられる。ただ、カメラの位置が中央に焦点を合わしているため、角地で隠れて状況を確認できないという。牛の体全体を写すのではなく、後方の尻方面をみられるように焦点をあてるべきだ。
一方、壁際で生むということは、難産など介助が必要な場合に人や機械の入らない条件の悪いところが多い。尻部に十分なスペースをとっているところは、現場でもあまりみることがない。
牛の長さと突き出しスペースで2.7m、プラス介助をするときは1.5m、道具を使うとすればさらに1.5m必要になる(図)。
周囲をコンクリ-トの壁ではなく、四方がパイプにしてチェーンなどで介助ができるようにする。また、梁が弱いとロープが縛れない、吊り上げれない・・・事態に陥る。柵がはずれる、移動できる、入り口を広くとる、トラクターが入れる・・・などトラブル時を想定しておくべきだ(写真)。
乳牛は分娩前後に動きが変わるので、人は適切な管理と対応が望まれる。
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