乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー

テーマ2 牛の健康はルーメンの健全にすることを最優先(10回) 

【5回目】高価な飼料タンパク質を無駄にしない

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栄養バランス(MUN)が活用されている

 乳牛の健康はルーメンの健全であり、給与した飼料のタンパク質とエネルギーの栄養バランスが重要だ。生産現場で乳中尿素窒素(MUN)は酪農家だけでなく関係者に広く活用、飼料設計の必須アイテムになっている。
 乳はおよそ87%の水分と4.5%の乳糖、4.0%の脂肪、3.2%の乳タンパク質とわずかな灰分から成り立っている。その中の乳タンパク質は一般に95%の純タンパク質と5%の非タンパク態窒素化合物(NPN)に分けられる。
NPNの中にクレアチン、オロチン酸など含まれているものの多くは尿素で、これがMUN(Milk Urea Nitrogen)である。

 図は飼料タンパク質の代謝を示しているが、給与したタンパク質の大部分はルーメン内の微生物により、ペプチド、アミノ酸、アンモニアへ分解される。これらはエネルギーによって微生物タンパク質へ合成され、乳タンパク質へ変換し移行する。
ただ、アンモニアのすべてが利用されるのではなく、大量に生産された時と、合成に必要なエネルギ-が不足した場合は体内で吸収される。このアンモニアは動物の細胞にとって、非常に毒性が強いので肝臓で尿素へ変換される。


 尿素のほとんどはじん臓を経て尿として排出されるが、細胞膜を通過して移動するため体のあらゆる組織に広く散らばる。血中から一部は乳腺へ取り込まれ乳汁中へ流れ、これがMUNで、体液としてだ液、子宮内液、その他の組織へ容易に入る。


適正なMUN値は低くなっている

 MUNの適正範囲は海外からの情報で、飼料中タンパク質の高いルーサン主体のため14~18 mg/dlであった。
しかし、北海道ではチモシー主体粗飼料ではタンパク質が低く、平成10年にバルク乳10~14、個体乳8~16mg/dlとした。

 図は北海道における約5,000戸のバルク乳36旬、5年毎のMUN推移グラフを示した。平均値は平成17年13.2mg/dlから27年11.2mg/dlへ、年次が進むほど低下傾向にある。要因は粗飼料構成がタンパク質源の牧草から、エネルギー源のとうもろこしへシフトしてきた。


 さらに、酪農家自らMUN数値は低い方が乳生産だけでなく、牛の健康や繁殖に適正と感じてきたことだ。給与する飼料タンパク質は高価で、過剰は糞や尿へ無駄にし、肝臓で尿素をつくるためのエネルギーが消費される。このことから、MUNの適正範囲はやや低めの8~12 mg/dlが妥当な数値へ移行してきた。


経時的に変動の少ない飼料を給与する

 酪農家単位で経時的に検討すると、バルク乳MUNが大きく上下しているのを頻繁にみかける。群全体でみても、前月と比べ3~5mg/dl動き、給与する粗飼料の品質と栄養濃度が変化するのが大きな要因と考えられた(写真)。

 一日単位でみてもサイレージや乾草の給与などによって、ル-メンの中は激しく動いている。ルーメン内微生物が変動することは乳生産だけでなく、疾病や繁殖にも悪影響を示す。

 図はフリーストール農家の飼料設計前後におけるMUNの推移を示している。経験と勘の飼料給与から12月に設計をして、綿密な飼料の組み合わせを行った。その結果、乳量は26kgから31kgまで上昇、乳質だけでなく繁殖も改善され、乳房の色も良くなった。

 

設計後、MUNと乳タンパク質がほぼ適正範囲内で、しかも長期間安定していることに驚きを感じた。MUNは日々の流れやバラツキを重視するほうが,飼料給与技術に生かされることが分かった。


アクティフォープロの効果がある

 ルーメン細菌叢で微生物タンパク質合成量を増やし、メタン産生の低減を目的とした製品を現場で確認した。原料は濃縮タンニン、エッセンシャルオイル、スパイスから成り立っている(商品名 アクティフォープロ)。

 この製品は搾乳一日1頭あたり乳量に応じて、20~30gを給与することが推奨されている。フランス、オランダなど海外で数多くの研究で、乳量は2kgほど増えて経済的にプラスと報告されている。

 U牧場は繋ぎで搾乳牛78頭、個体乳量11,793㎏、体細胞169千、分娩間隔405日と極めて優秀な酪農家だ(写真)。
牛もきれいでボディコンディションスコア(BCS)も均一化、アダーカラーも良好である。

 とうもろこしサイレージとグラスサイレージのTMRに一日一頭あたりアクティフォープロ20gを添加してもらった。
添加前後それぞれ6ヶ月をみると、管理乳量は36.4が38.3㎏で1.99㎏増えた(図)。
同様に、乳タンパク質率は3.33%が3.46で0.13%高くなった。

 乳タンパク質率は3年前3.25、2年前3.26、1年前3.36%で、添加年は3.42%まで上昇していた。同様に、MUNは11.1、10.8、9.4で、添加年は8.2mg/dlまで低下していることに注目すべきた。給与した飼料中のタンパク質がルーメン内で、微生物タンパク質へ効率的に変換されていた。高価な飼料タンパク質を無駄なくルーメン微生物が活動、牛の健康に寄与していることが分かった。

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