乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー
テーマ1 分娩後の体脂肪動員・泌乳前期のエネルギー充足(8回)
【8回目】泌乳前期はエネルギーを充足させる
泌乳前期の乳タンパク質を注視する
分娩後、乳量は増えるのに対して、飼料の摂取が間に合わない。乳タンパク質はエネルギー飼料充足率を判断することができ、極端に低下する個体牛がいる。
図は経過日数別乳タンパク質率の推移を示しているが、一乳期を通してバラつきが見受けられる。その中でも泌乳前期の低い乳タンパク質率の牛がおり、エネルギー不足と考えられる。
図は酪農家における分娩100日以内の乳タンパク質2.8%以下割合と、潜在性ケトーシス割合(高BHB)の関係を示しているが両者の相関は高い。2.8%以下の割合は北海道の平均は15%程だが5%~45%まで、酪農家間で差が開いている。
エネルギー不足は繁殖へ影響する
図は乾乳期から泌乳期にかけてエネルギーバランスと、原始卵胞の発育を示している。泌乳前期だけはマイナスで、その程度によって、③から⑤へと受胎が遅れていくことが理解できる。
表は泌乳前期におけるエネルギー充足が判断できる乳タンパク質率と5ヶ月後の生存率、繁殖成績を示している。乳タンパク質2.5%以下の牛は全体の3%で、5ヶ月後まで生存している牛は82%(廃用18%)、授精している割合は73%(未授精27%)だ。乳タンパク質2.5~2.7%以下の牛は全体の11%で、5ヶ月後まで生存している牛は90%、授精している割合は84%と他と比べて悪かった。泌乳前期のエネルギー不足は乳タンパク質率が極端に低く、しかも長く続くと生存や繁殖にもマイナスということが分かった。
分娩後、乳検では1~2回目の乳タンパク質が2.8%以下とならない飼養管理が求められる。また、このような牛は発情を注意深く観察・発見に努め、初回の授精を早めに行い空胎日数を短縮するべきであろう。
油脂で乳量増と乳脂率アップした
油脂は炭水化物の2.25倍というエネルギー価があるので、泌乳初期エネルギーを充足させることができる。結果として、泌乳ピーク量を高めて乳期全体の乳量アップ、過度の体脂肪動員を防ぎ繁殖成績の改善も期待される。最近はルーメン微生物への影響を最小限に抑えるために、低pHの四胃移行で分解する加工製剤化したバイパス油脂が主流となってきた。
K牧場はフリーストール、ロボット搾乳、搾乳頭数130頭、個体乳量11,651㎏、体細胞143千個、分娩間隔415日と成績優秀な酪農家だ。9月中盤から乳量アップと乳脂率維持を目的に、新たに中性脂肪タイプ(商品名パームフアットYPT)を給与した。理想的なエネルギー供給を追求した機能性粉末油脂を泌乳前期牛80頭に一日一頭あたり300gを目途に添加した。
その結果、日乳量は給与前の8月まで35.5㎏であったが、給与後10月以降36.9㎏で104%まで増えた(図)。同様に、乳脂率は給与前の8月まで3.85%であったが、給与後10月以降4.03%で105%まで高くなった。
酪農家一日あたり収支を乳脂率と乳タンパク質率は除外して乳量のみで計算した。経費は6,330円(給与量0.330㎏*80頭*240円)、収入は18,200円(乳量1.4㎏*130頭*100円)、差し引きプラス11,864円であった。泌乳前期はエネルギーを充足させると、乳量や乳脂率へ反映し所得増につながった。
K牧場は疾病や繁殖も改善された
さらに、K牧場は給与前後における1年間を比べてみると、疾病に関連する項目である母牛における分娩後60日以内死廃率、初回高ケトン体(BHB)割合は低下していた。
同様に、繁殖に関する項目である200日以上空胎日数割合は低下、発情発見率と妊娠率は高くなっていた。乳量や乳成分だけでなく、疾病や繁殖に関しては明らかに改善された。多価不飽和脂肪酸であるリノール酸はプロスタグランジンF2の合成放出を抑制し応対の退行を防ぐので繁殖向上にも有効だ。
ただ、バイパス油脂といっても油脂添加はルーメン発酵に悪影響なので、乾物摂取量低下を抑えるために乾物中7%以内とする。通常、粗飼料や濃厚飼料の脂肪含量3%ほど含まれているので、油脂添加は4%が限界とすべきだ。自家の構成飼料から油脂のタイプ、泌乳ステージ、乳量レベルを考慮して油脂源と添加量を見極める。分娩後の体脂肪動員を抑えるためには、泌乳前期の飼料エネルギー充足を高めることが最も重要だ。
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