乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー
テーマ1 分娩後の体脂肪動員・泌乳前期のエネルギー充足(8回)
【6回目】体脂肪動員は乳のケトン体で判断できる
乳で潜在性ケトーシスを判断できる
分娩後、速やかに乳量を出すが、エネルギーはどこから供給しているか、摂取した飼料、もしくは自分の体からかだ。前者は旺盛な食いこみによるルーメン発酵によるものだが、後者は自分の体を犠牲にして乳へ変換している。
北海道では2018年から血液で判断していたケトン体を、乳で分析が可能になった(写真)。ケトン体はBHB(β-ヒドロキシ酪酸)とアセトンやアセト酢酸であるが、分析が安定しているBHB濃度で酪農家へ提供している。獣医師はサンケトペーパーで診断することが多かった。
BHBは血中と乳中との相関が高く血中1.2mmol/Lが乳中0.13mmol/Lに相当、これ以上の数値は高ケトン(BHB)体として体脂肪動員、潜在性ケトーシスを判断することができる。
乳は毎旬バルク、月一回牛群検定でさまざまな項目を分析、酪農家へ情報が提供されている。牛の体から発信する数値なので価値が高く、飼養管理の組み立てに必須アイテムだ。
個体牛のケトン体(BHB)はバラツク
図は酪農家144戸における分娩後60日以内 11,422頭の個体牛ケトン体(BHB)のヒストグラムを示している。BHBの平均値は0.06mmol/Lだが、ゼロから0.5 mmol/L まで広い範囲で分散している。図の中で縦の棒は表示されていないものの、1.8mmol/Lを超える牛もいた。
個体牛でみると、高ケトン体(BHB)牛は10.6%であるが、ゼロmmol/Lは14%もありバラツキは大きかった。高BHB牛を累計すると、分娩後14日以内 20%、35日以内 15%、60日以内では 11%で分娩直後に集中していた。牛群で割合をみても、最少1%~最大50%と酪農家間で大きな差があった。
I農場は初回検定時高BHB牛割合が「0%」で、全道平均と比べて極端に低かった。乾乳から分娩にかけての飼養管理がしっかり実践していることが伺える。分娩直後、①食い込まない、②甘酸っぱい臭いがする、③肥っている、この3点でケトーシスと断定する。そして、速やかにエネルギー源の液体を飲ませるが、回復しないときは獣医師を呼ぶという。関係者に聞いても、「獣医師が頻繁にくる酪農家と、そうでないところは決まっている」と話していた。
高ケトン体(BHB)は乳に反応する
表は分娩後60日以内における潜在性ケトーシス(高BHB)牛と、それ以外を健康牛として乳成績を比較した。乳脂率は潜在性ケトーシス牛が4.72%で、健康牛の3.85%と比べ極端に高かった。乳糖率およびP/F比はそれぞれ潜在性ケトーシス牛が4.37%(健康牛4.53%)、0.68(健康牛0.82)と低かった。体細胞数は潜在性ケトーシス牛375千個で、健康牛214千個と比べ高く、免疫機能が低下していた。
表 分娩60日以内の健康牛と潜在性ケトーシス牛の乳成績
潜在性ケトーシス = 高ケトン体 = BHB0.13mmol/L以上
泌乳初期におけるケトン体(BHB)の上昇は、乳量や乳成分に反応し牛に変化が起きている。臨床症状を伴わず、血中や乳中ケトン体(BHB)濃度の高い潜在性ケトーシスの時点で発見処置することが望まれる。ただ、月1回の乳検では個体牛を摘発するのが難しく、群(酪農家)での飼養管理の問題点を見つけることが本来の目的だ。
肥り過ぎは高ケトン体(BHB)傾向にある
表は高ケトン体(BHB)別に、肥り過ぎの指標と考えられる前産分娩間隔を示したものだ。分娩後経過日数30日以内において、0.05mmol/L未満の牛の前産分娩間隔は407日だが、 0.20mmol/L以上の牛では前産分娩間隔が457日と長くなっていた。経過日数31~60日においても同様で、BHBが高い牛ほど前産分娩間隔が長くなる傾向であった。
肥った牛は分娩とともに体の脂肪が肝臓を通して、乳の脂肪へ移行していることが伺える。ボディコンディションスコア(BCS)が高くなることは、難産だけでなくケトーシスや第四胃変位など、周産期病のリスクが高まる。インスリン抵抗性が強くなり作用が効きにくくなり、脂肪分解を抑制が弱まってくる。分娩後は体脂肪動員でケトン体(BHB)が高くなって、潜在性ケトーシスのリスクが増すことを意味する(写真)。
分娩後の体脂肪動員は血液だけでなく乳のケトン体で判断できるようになった。粗飼料の品質や牛の肥り具合で体脂肪動員が行われ遊離脂肪酸を経て、分娩直後に乳脂率が高くなりBHBを発する。多くの酪農家は潜在性ケトーシスに悩まされており、乾乳から分娩までの飼養管理の改善を要する。
注;図表は北海道酪農検定検査協会
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